佐々部清監督はクランクイン直前に格安ワイン痛飲し骨折
結局、退院後も左手を三角巾で吊りながらの撮影となったばかりか、設備の老朽化でスタジオが全焼するオマケまでついて、いろんな意味で忘れられない作品になりました。
もちろん酒の席でいいアイデアが生まれ、作品に反映されることは多いですよ。例えば、07年公開の映画「夕凪の街 桜の国」。これは「この世界の片隅に」と同じくこうの史代さんの原作で、広島市への原爆投下から13年後の被爆女性、皆実(麻生久美子)と62年後の姪・七波(田中麗奈)、2人が主人公です。
この作品は日本映画批評家大賞作品賞、麻生さんは3つの主演女優賞、弟役の堺正章さんは日本映画批評家大賞審査員特別賞を受賞したのですが、物語の縦の糸のひとつが、髪留めなんです。
当初、髪留めはそれほど気にかけていませんでした。ところが、打ち合わせ後の飲み会の席でメークとスクリプターの女性が「どんな髪留めにしましょうか」と振ってきたんですね。その会話の中で、原爆症で亡くなる皆実が死ぬ間際に、父に買ってもらった髪留めを母に託し、母から譲り受けた息子は嫁に求婚の際に手渡す。そして2人の間に生まれたのが七波。七波の母は、皆実と同じく原爆症で早逝してしまうのですが、七波にとって髪留めは祖母と伯母、母の形見。髪留めを通じて、3世代のつながりを表現できるわけです。