大林監督の目「安心感を感じたとき、女の子は一番美しい」
自作を「個人映画」
自作を「個人映画」と呼び、映画会社の所属監督には決してできないチャレンジングな映像表現を追求したことでも評価が高い。「サイレント時代の米映画では普通にやっていたアイデアなんだよ」と本人は謙遜するが、特撮や合成を多用したポップな色使いの映像は、いつ見ても新鮮に感じられる。40年も前の映画と知らずに「HOUSE ハウス」(77年)を見た米国のプロデューサーが、気鋭の若手監督として売り出すつもりで「OBAYASHI」を探しにやってきたエピソードもある。
大林映画をきっかけに業界を志したと公言するクリエーターも多いし、無意識のうちに影響を受けた人もいるはずだ。「転校生」では「男女が中身だけ入れ替わる」荒唐無稽な設定を、“同じ俳優に入れ替わり後の性別を演じさせる”ことで違和感なく見せることに成功したが、この発案なかりせば、大ヒットアニメ「君の名は。」だって生まれなかったかもしれない。
取材後監督は、お礼を言って立ち上がった私の手を握り「まだまだがんばるよ」と笑った。その言葉通りに命を振り絞って仕上げてくれた映画「海辺の映画館―キネマの玉手箱」(公開予定)が、大林映画ファンにとって最後の贈り物となる。
(映画評論家・前田有一)