追悼・若松武史さん 毒と華を併せ持つ希代の俳優だった
散歩の日課を欠かさず
96年のテレビドラマ「外科医柊又三郎」に医師役で出演した際に、甲状腺がんの患者を問診するシーンで自分の症状に当てはまることに気づき、監修の医師に相談したところ甲状腺がんが発覚。手術の際に声帯が傷ついたため、一時、声を失ったが必死のリハビリで奇跡的に回復。舞台に復帰した。しかし、肺炎を起こすなどして一昨年から治療に専念。昨年8月から自宅療養を始めたばかりだった。
余命を宣告され、画家志望だった若松さんが書きためた絵の個展を「生前遺作展」として行う予定だったが、それを本人が見るのはかなわなかった(同展は7月に開催予定)。
命旦夕に迫っても酸素ボンベを背負っての散歩の日課を欠かさず、ポジティブな姿勢を持ち続けた。
妻・由美子さんによれば、亡くなった朝も、自分で切り分けたパンを食べてくつろいだ後、突然体から空気が抜けるように崩れ落ちたという。
まるで俳優が出番を終えて舞台から退場するかのように、まばたきする間に彼岸への川を跳躍した若松さん。「毒」と「華」を併せ持つ希代の俳優にふさわしい従容とした最期だった。
合掌
(演劇ジャーナリスト・山田勝仁)