対岸の火事?妊娠中絶に苦渋する少女たちのリアル…米映画「17歳の瞳に映る世界」
“ジェンダーバイアス”はまだまだ世界的問題であり、女性にとって不利な刑法まで存在するのですが、その歪みにメスを入れる映画が7月16日に公開されます。それは『17歳の瞳に映る世界』というアメリカ映画であり、第70回ベルリン国際映画祭銀熊賞(審査員グランプリ)、サンダンス映画祭2020ネオリアリズム賞を受賞した17歳の少女の物語です。
■少女と中絶、そしてアメリカ社会
主人公のオータムはペンシルベニアに住む17歳で、ある日、妊娠に気付き、いとこに付き合ってもらいニューヨークへと向かいます。というのもペンシルベニアでは、未成年の場合、両親の同意がなければ中絶手術が受けられないという法律なのだそうです。
ちなみにアメリカは宗教的な問題から人工中絶反対派も多く、トランプ政権の余波で中絶禁止法が合法化されている州もいくつか存在します。レイプにより妊娠しても中絶したら女性は監獄入りという刑法です。映画でも、中絶を反対する大人の意見が映し出されていて、オータムに中絶を辞めさせようと考える職員が、養子縁組の提案をしたり、中絶反対のビデオを見せたりします。
監督であるエリザ・ヒットマンがこの映画を作ったきっかけは、アイルランドの刑法では中絶が出来ず、母体が危険な状況にさらされ命を落とした女性の記事を読んだことだったそうです。
人には様々な事情があるのに、予期せぬ妊娠でさえ、女性だけが処罰される現実社会への理不尽さに声をあげたのではないでしょうか? 映画ではお腹の子の父親は明確には描かれていません。
もちろん親に言えない相手だから彼女はいとこに相談し、17歳の女の子2人のバイト代でもまかなえない中絶費用を手に入れる為に、仕方なく男性の下心から工面することになります。
映画の舞台はアメリカですが、日本でもし、少女が望まない妊娠をした場合、どうでしょう。日本では中絶手術には一応パートナーの同意書が必要です。ただし、状況によって同意書は必要ない場合もあるので、まずは病院に問い合わせることが一番です。
また、日本における中絶費用は10万円前後。けれど親に妊娠を告げられない少女たちが高額の中絶手術費用をどうやって工面するのでしょうか? だからこそ映画の彼女たちの行動は仕方がないこととまで思えてきます。
対岸の火事ではない、いま日本の問題
コロナ禍における休校や外出自粛の影響からか、日本では若者からの妊娠相談が後を絶たないようです。映画の主人公より若い年齢の女の子ももちろんいます。彼女たちは親に相談することが出来ず、電話相談窓口に悩みを打ち明けています。
「コンドームを着けていたのに妊娠するとは思わなかった」と話す若者たち。ご存知のように日本の性教育は世界的にも大幅に遅れていて、学校で習うのは生殖器の仕組みなどくらいで具体的な教育は受けられません。
そう考えると、「性交同意年齢」=「精神的、肉体的に発達した年齢であり、性についてしっかり理解し、責任を取れる年齢」は一体、何歳なのでしょうか? 日本刑法では性交同意年齢は13歳からとなっていますが、果たして彼ら彼女らが性行為について正しく知っていて、妊娠の責任を取れるのでしょうか。
さらに女性は男性と違い、妊娠したら体に変化が現れ、見た目で妊娠していることに気付かれてしまいます。映画のオータムがもし中絶を決断しなければ、どんどんお腹は膨らみ、学校にはいられなくなり、教育も経たれ、手を差し伸べてくれる人がいなければ、働き口に苦しむシングルマザーになるのが目に見えています。
性行為とは妊娠に繋がる行為で、女の子の未来を大きく変えてしまうほどのリスクを伴うのです。けれど、女性ひとりでは妊娠出来ません。果たして10代の女性の妊娠に協力的な相手の男性はどれだけいるんでしょうか? そう思いを巡らせてみると、男性不在の中絶をテーマにしたティーンが主人公の映画は、アメリカだけの問題ではなく、全世界の問題な気がしてならないのです。