山口洋子にも「実家の姑さんに可愛がられる嫁にならないといけない」という呪縛が
1983年、日本中に空前の大ブームを巻き起こしたドラマといえば、「おしん」(NHK)である。主演の田中裕子演じるおしんが、関東大震災で自宅と工場を瞬時に失い、佐賀にある夫の実家に身を寄せるくだりがある。これをマニアは「地獄の佐賀編」と呼ぶらしい。
姑から壮絶な“嫁いびり”に遭ったおしんは、出産間際になっても農作業を課せられ、揚げ句に、嫁いでいた義妹が出産を控えて実家に戻ってきたことから「同じ家に2人も身重の女がいては縁起が悪い」と言う姑の言い付けに従い、母屋から追い出されてしまう。物置
に独り隔離されたおしんは、ろくに食事も与えられず、産気付いても誰にも気付かれず、自力で女児を産むのだが、結局死産してしまう。
私観だが前半の「小林綾子編」がマイルドに感じるくらいで、正真正銘の地獄である。よく、こんな壮絶な作品を「朝の連ドラ」で流せたものだとつくづく思うと同時に、田中裕子の悲哀にみちた演技力と、橋田寿賀子の筆力にうなるほかない。
とはいえ、一般の視聴者にとってそんなことはどうでもよくて、姑役の高森和子は街を歩けば罵声を浴びせられ、所属事務所には連日「おしんをいじめるな」という抗議の投稿や、嫌がらせが相次いだというし、当時の佐賀県の井本副知事は「これでは佐賀のイメージダウンになる」とNHK佐賀放送局を通して善処を求めたのは有名な話だ。行政レベルで懸案事項に上っていたことになる。