大蔵貢社長の独裁で「新東宝」に歪み…“エログロ路線”も下降線をたどる
1950年代後半、新東宝は、活動弁士あがりの大蔵貢が社長に就いていた。「湯の町エレジー」で知られる歌手、近江俊郎の実兄で、ワンマン社長として知られた人物である。
大蔵は他社との違いを売りにしようと、“エログロ路線”を打ち出し、思いのほかヒットを飛ばした。「女真珠王の復讐」(出演=宇津井健、前田通子)、「海女の戦慄」(前田通子、天城竜太郎)、「肉体女優殺し 五人の犯罪者」(宇津井健、三ツ矢歌子)、「女体渦巻島」(吉田輝雄、三原葉子)等々、それらしいラインアップが並ぶ。
並行して、人情モノやアクション系、純文学作品も作られたが、収益はさほど伸びず、興行収益上位には“エログロ”ばかりが並んだ。そして、相も変わらずギャラの安い若手俳優を起用し続けることで、製作費を抑えた。
青山中学3年生の白羽秀樹少年が「第6回・新東宝スターレット」に選ばれたのは、まさにこの年のことである。
「白羽君が新東宝のオーディションに受かったことは覚えています。同じクラスでしたから、クラスメートが口々にお祝いの言葉をかけたことも、ぼんやりとですが、記憶にあります。ただ、覚えているのはそれくらい。彼とは高校も別になったし、映画俳優として活躍していたという情報は、それほど伝わってこなかった。たまに会っても景気のいい感じはなかったです」(沢村忠=白羽秀樹と小中学校同級生だった人物)