<60>「本を読んで会いに来ました」ドン・ファン宅に怪しい男女2人組
「あの梅干しは質がいいですよ」
和歌山県内に住んでいて梅干しについても詳しい友人から、一箱で数千円の価値があると聞いて驚いたものだ。
話を訪ねてきた2人のことに戻そう。
「どんなヤツらなの?」
「怪しい感じの男女です」
彼女が怯えているのが分かった。
リビングのソファに腰掛けていたのは、60代後半ぐらいの男性と、同じぐらいの年齢の女性だった。ただし目つきが鋭いワケでもなく、ヤクザ者にも見えなかった。
「私たちは知人でして、私は沖縄から、彼女は北九州から、さっき来たんです」
「熊野古道でも旅をするんですか?」
2人ともウオーキングをするような格好なので聞いた。
「いえ、いえ。『紀州のドン・ファン』を読んで、ぜひとも野崎幸助さんにお会いしたいと訪ねてきました」
「目的がドン・ファンに会うためですか?」