<60>「本を読んで会いに来ました」ドン・ファン宅に怪しい男女2人組
にわかには信じられなかった。
「ええ、そうなんです。田辺の駅前でタクシーの運転手さんに自宅のことを聞いたら、『野崎さんのお母さんが亡くなったって広告が新聞に載っている』と言われたのですが、せっかくここまで来たんだからと家に。そうしたら野崎さんに歓待していただいて……」
アロハのようなシャツを着ている男性が言った。イブが亡くなった後に紀伊民報に「野崎イブは永眠しました」という広告が載った。そこには愛犬とは書かれておらず、多くの市民は社長の母親が亡くなったと誤解したようだった。リビングに大きな笑い声が広がった。
男性は無精ひげに手入れのしていないボサボサの長い髪で、清潔感はない。女性の方も生活に疲れているような感じを受けた。 =つづく