崔洋一が『血と骨』の原作者・梁石日に「小さな破滅」を迫ったわけ
「なに言うとんのやおまえは、ひどい男やのー」
崔は原作者の梁石日を”前借り文学作家”として敬愛しているという。
「書く書くと言っては出版社からお金をかき集めて、放蕩して、お金がなくなって切羽詰まった時に書いた小説はなかなかすぐれてる。僕にとっては10年に1本、優れた本を出してくれれば十分な人なんですよ」
だから崔は梁に、
「早いこと1回、小さな破滅をしてくれ」
と迫っていた。それに対して梁は
「なに言うとんのやおまえは、ひどい男やのー」
と笑っていたのだが、13歳も若い崔の方が先に逝ってしまった。
だいぶ前に私は共通の知人である編集者の通夜の席で梁と一緒になり、久しぶりだったこともあって不謹慎にも高笑いをしてしまった。
「サタカさんは梁さんと子犬のようにじゃれあっていましたね」
後でそう言われて大いに反省したが、いまはただ、米寿を迎えて体調が万全ではない梁が崔の後を追わないよう祈るだけである。
崔は映画で近藤勇を演じたこともある。(文中敬称略)