夏井いつきさんが解く俳句“3ないの呪い” 初心者が行き詰まらないための心得

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タネ作りは観察したことを十二音に落とし込む

「タネ作りは観察したことをメモして十二音に落とし込む、いわば取材活動。天才的なひらめきが必要なものではありません。しかも、タネを集めるうちに、面白いものはないかと物事を細やかに見るようになる。好奇心が強くなって、退屈しなくなった、毎日が楽しくなったという声をよく聞きます。ヒマだからといってスマホを見ることもなくなりますよ」

 俳句のタネができたら、最後に上五(最初の五音)に季語を取り合わせる。タネ作りが取材活動なら、季語選びは表現行為。ここで大切なのは季語を集めた「歳時記」と“仲良くなる”ことだという。

「俳句のタネに感情を補ってくれるのが季語なんです。人間の感情は、うれしいけど切ないとか、悔しいけど少しほっとしたとか、複雑なもの。歳時記をめくりながら、自分のタネにどんな季語が似合うか当てはめてみるといいですよ。単純なものから複雑な感情まで、ぴったりの季語が見つかるはずです」

 歳時記をお借りし、秋の季語を当てはめてみた。

〈秋高し吸い込まれていく砂時計〉

〈長き夜の吸い込まれていく砂時計〉

「秋高し」だと伸びやかなイメージで、「長き夜の」では少し感傷的な気分になる。タネは同じなのに想像する光景も、感じられる心情も違って面白い。

「自分の心情にぴったり合う季語に出合うと、とてもうれしい。俳句は言葉のパズル。決して難しいものではないんですよ」

 作り方の基礎を覚えたら毎日詠むこと。そうすると“俳筋力”が鍛えられていくという。夏井さんが開催する「句会ライブ」や、近隣の句会へ参加したり、新聞・ラジオの俳句コーナーに投句するのもポイントだ。他の人の俳句によって、観察の目のつけどころに気づかされたり、読み解く楽しさを知ったりと、大きな糧になるという。

「自分の俳句が選ばれたらやりがいを感じるし、切磋琢磨する仲間の存在も心強いですよね。俳句は自分の内側から生み出す創作物だと思われていますが、作るための材料はすべて外側にあります。つまり、外を見始める。そうすると自分自身も客観的に見られるようになります。悲しい時、つらい時は自分の殻に閉じこもりがちです。でも、客観的に見ることで『失敗もタネなんだ』と俳句に昇華できて心が落ち着く。俳句は人生を支える杖なのです」

 実際、俳句を始めて立ち直れた人やひきこもりから抜け出せた人を何人も見てきたという。

「不況や戦争など不安定な時代だからこそ花をめでたり、風の音を聴いたりする心持ちが大切。たかが俳句と思うかもしれませんが、俳句は世界を救うと私は思っています」

 帰りに歳時記を買うと決めた筆者に、始める前に俳号を付けましょうと夏井さん。俳号の付け方にルールはなく、いつでも変えていいという。

「正岡子規は野球(のぼーる)や虚無僧など俳号を山ほど持っていました。俳号を付けたらあなたも俳人。気軽に楽しんでほしいです」

(取材・文=中川明紀/ジャーナリスト)

▽夏井いつき(なつい・いつき) 1957年生まれ。松山市在住。俳句集団「いつき組」組長。創作活動に加えて俳句の指導にも力を注ぎ、「プレバト!!」(毎日放送、TBS系)、「夏井いつきのよみ旅!」(NHK)など、テレビ・ラジオに出演多数。「夏井いつきの世界一わかりやすい俳句鑑賞の授業」(PHP研究所)など著書も多数。「瓢箪から人生」(小学館)、「2023年版 夏井いつきの365日季語手帖」(レゾンクリエイト)が絶賛発売中。

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