松本白鸚「ラ・マンチャの男」最終公演に思う 本来あるべき自分を目指して…
松本白鸚さんが50年にわたり演じ続けてきた「ラ・マンチャの男」ファイナル公演が横須賀芸術劇場で上演中だ。千穐楽(せんしゅうらく)には公演回数1324回になる前人未到の偉業である。
最初の上演は1969年。私は中学生だ。
当初はおそらく戸惑いを持って受け入れられたのではないか。ミュージカルなのに照明は薄暗く、衣装は地味でボロボロ、派手な群舞もなければ喜劇でも悲劇でもない。
宗教裁判にかけられるセルバンテスが獄中で、自分がドン・キホーテだと思い込んでいる狂人アロンソ・キハーナの即興劇を演じるという三重構造。ユーモアはあるものの明るさはなく、終わり方は苦くカタルシスもない。哲学的で何を問われているのか難解である。
それでもありもしない「夢」に向かってひたすらに突き進む騎士であり戯作者の姿は我々に感動を与える。
それは「本当の現実」よりも「本来あるべき姿」になれと教えてくれるからだ。劇中ドン・キホーテは言う「事実は真実の敵だ」と。