大ヒット映画「ゴジラ-1.0」を徹底分析 都民が被爆するのをアメリカ人はどう受け取る?
ゴジラという“最悪の脅威”
また「シン・ゴジラ」は身長118.5メートルもある未知の完全生物だったが、今回は50.1メートル。これはゴジラが人間に迫る恐怖をより身近に感じさせるためで、生物としての恐ろしさを強調。さらに山崎監督はゴジラを単なる生物ではなく、神との中間に位置する存在と捉えた。損傷した細胞が再生する能力や、放射能を吐くときに背びれが一度伸びる動きを原子爆弾のインプロージョン方式から発想するなど、普通の生物にはない能力をゴジラに持たせている。加えて「シン・ゴジラ」を含め、これまでの多くのゴジラ映画が『ゴジラとは何か?』を主なテーマにしていたのに対し、原爆や戦争を象徴する存在としてイメージした以外は、その部分を掘り下げてはいない。というのも監督が焦点を当てているのは、ゴジラという最悪の脅威に立ち向かう人間たちのドラマだからだ。
この映画では特攻隊の生き残りである神木隆之介扮する敷島浩一をはじめ、民間人が結集してゴジラと戦う。これも政府と自衛隊の動きを追った、官と民で言えば官の映画だった「シン・ゴジラ」の逆をいっている。民間人だけに大した武器や装備もなく、どうやってゴジラに対抗するかが後半の見どころだ。脚本も担当している山崎監督は、裏テーマとしてコロナ禍の時代を経験して、その間の“官”の対応ぶりに不信感が生じ、その実感から自分たちの問題は自分たちで解決するという民間人のドラマにした方が、今の時代の空気に合っていると思ったという。生活の貧しさや苦しさと向き合いながら、ゴジラの襲来という現状を打破しようとする民間人は、過去の人々だが現代と呼応する。この部分も、「ゴジラ-1.0」がヒットしている要因だろう。
■いよいよ12月1日から北米で公開
今夏、アメリカでは“原爆の父”ロバート・オッペンハイマーを描いた伝記映画「オッペンハイマー」が大ヒットしたことで、アメリカ人の間では原爆に対する関心が高まっている。1946年にビキニ環礁で行われた核実験「クロスロード作戦」によって怪獣となったゴジラが登場し、東京を襲ったゴジラによって敷島が“黒い雨”を浴びることから見ても東京都民が被爆してしまう「ゴジラ-1.0」を、アメリカの国民はどう受け取るのか。
キングコングやゴジラなどのモンスター同士が戦うハリウッド版ゴジラ映画とは違う、日本版ゴジラ映画の真価が“原爆”をキーワードに問われることになるだろう。
(金澤誠/映画ライター)