悲劇を生まないために「延命」「緩和」の意味を知っておく 在宅診療の名医が語る
こうした延命方法をイメージするのか、胃ろうというだけで、はなから否定する人も少なくない。
「しかし、高齢者の中には脳はしっかりしているのに神経の病気などで体が動かせない、意思表示ができないという患者が一定数います。こういう人は胃ろうをつくることで元気になる。しかも、胃ろうで体力が回復すると自力で食べられるようになったり、介助が楽になる場合もある。老衰の患者でも神経疾患の患者でも区別せず、『食べられないから』という理由だけで胃ろうをつくっていた“過去の医療”へのトラウマが、まだ社会に残っているように思います」
■「緩和」は医療技術の集大成
人は基本的には長生きしたい。それは、どの医療現場においても前提にはなっていて、在宅診療でも決して例外ではない。
「抗がん剤をやめたら、生きることをやめてしまうような気がして」
山中院長はそんな言葉をよく聞く。
「命は必ず終わる。それは人類史上、変わりのない真実です。誰もがいつかは命を諦めなくてはいけないのです。それでも、“今”がすべての人にとって、少しでも長生きしたいのは生物としての生存本能として自然なものです。それにもかかわらず、多くの人が今“延命を望まない”のはなぜか。それは、『延命』という言葉の意味が、医師、患者とその家族との間であまりに異なっているからです。私たちが気を付けなくてはいけないのは、医者にとっても患者やその家族にとっても『延命措置』というものが何を示すのかをしっかりと考えて、共有をしなくてはいけないのです。病気の状態や人の価値観によっても大きく変わる問題なのです」