(4)急性大動脈解離の手術は心臓外科医でも受けたくない
すぐに病院に担ぎ込まれて手術を受ければ、半分以上助かる場合がありますが、手術で命を取り留めても下半身がマヒする場合など、さまざまな不運に見舞われる可能性があります。急性大動脈解離になったら、その運命を受け入れるしかありません。
私が34歳の時に責任者として心臓外科を任された病院に、50代の女性がこの病気を疑われて運び込まれてきました。正月の4日でした。一晩中かかってなんとか割れてふにゃふにゃになってしまっている大動脈を人工血管に取り換えました。そこいら中からにじみ出す出血に手間取り、とんでもない時間がかかりました。でも患者さんは助かりました。
数日後、研修医に「大変な手術でしたね。感動しました」などと言われましたが、「何を言ってるんだ! あんなみっともない手術」と怒鳴りつけたことを覚えています。つい先日、その患者さまのお嬢さまから「33年の命を頂いた」と感謝を込めたお知らせが届きました。
40代の建設業の男性が職場から運び込まれてきた時のことです。手術を前に奥さんにとんでもないリスクを伴う大手術だと説明しました。すると奥さんは「今、会社が大変な時なんです。来週には仕事に戻れますか?」。