行きつけの店で女性に串焼きのうんちくを語った顛末
柳橋(台東区)
幸田文の体験を基にした「流れる」が成瀬巳喜男によって映画化されたのは昭和31年。衰退していく花柳界をあでやかな中にもシニカルに描いた傑作だ。舞台になったのは隅田川沿いの柳橋。人間国宝クラスの女優がズラリと出演しているのだけど、若い連中は知らないだろうなぁ。
そんなことを考えながら隅田川沿いを歩き、腹も減ったので柳橋中央通りの「大吉」へ。昭和45年創業の老舗、池波正太郎も愛した下町の洋食屋だ。迷った挙げ句、アタシはアジフライに半ライス(680円)。ふと、メニューから目を上げると老若男女で店は大賑わい。ランチタイムに長居は無用。さっさと食べて下町散策へ。
蔵前から浅草方面をぶらつき、1日いても飽きない合羽橋へ。使いやすそうなピーラーをゲットし、池波正太郎記念文庫を見学。充実した時間つぶしができ、腹も減り喉も渇いたところで今夜の目的地、串焼きの「柳ばし 鳥茂」を目指す。
現在の焼き場を守る若女将のおじいちゃんがその昔、新宿でもつ焼きの屋台を引いていた。おじいちゃんは元洋食のコックさん。軍隊では調理場を担当していた。味付けに工夫を凝らした串焼きは評判を呼び、名優・森繁久弥が食べに来ていたという。
2代目が現在の場所に店を出して57年。新宿、新橋など都内にのれん分けした店がいくつかある。アタシが親父に連れられて行ったのは五反田の鳥茂だ。