「トリチウム水」を分離する装置 関係者の多くが期待した画期的な技術
間もなく5カ月が経つ。昨年8月、政府・東電が地元関係者との約束を反故にし、福島第1原発にたまる放射性物質トリチウムを含んだ「処理水」の海洋放出を強行。元の汚染水は今なお1日約90トンのペースで増え続け、海洋放出はイタチごっこだ。政府は完了までに30~40年かかるとするが、希望的観測に過ぎない。元凶は、多核種除去設備「ALPS」でもトリチウムを取り除けないこと。しかし、この状況に一石を投じたのが、約5年半前に近畿大学の研究チームが発表した最新の除去技術だった。あの画期的なシステムは今、どうなっているのか。研究者らの挑戦を追った。
「『トリチウム水』を分離・回収する方法及び装置を開発しました」
2018年6月、近畿大学の研究チームが発表したプレスリリースは、各メディアに驚きをもって迎えられた。
トリチウムを含んだ水は普通の水と化学的性質が同じであり、分離するのは困難とされる。しかし、近大の研究者らは大阪市のアルミ箔製造会社と連携し、直径5ナノメートル(ナノは10億分の1)という超微細な穴を持つアルミ製フィルターを開発。トリチウム水を含んだ水蒸気を通すと、炭やスポンジのような無数の穴の表面にトリチウム水だけが残り、分離して取り除くことに成功したというのだ。