袴田巌さん無罪確定 検事総長の控訴断念「談話」でわかった検察庁の“お役所体質”
静岡県で一家4人が殺害された「袴田事件」。検察が控訴しないと表明したことで、死刑確定から44年、事件発生から58年という長い年月を経て袴田巌さん(88)の無罪が確定しました。
今回の再審無罪判決は、「開かずの扉」といわれる再審制度の問題点を相当あぶりだしたと思います。
一つ目の問題点は、再審請求のための証拠開示の手続きが整備されていない点です。袴田事件では、事件から40年以上経過してようやく約600点の証拠が開示され、無罪につながりました。刑事裁判の場で検察側が証拠開示に比較的柔軟な対応をするようになったのはここ10年くらいの話です。それ以前は、重要証拠ですら検察官は開示を拒むことが多くあり、裁判所もその対応を追認していました。30年も前の科学的証拠を、現代の科学技術をもって再検証すれば冤罪(えんざい)はもっと明らかになるのではないでしょうか。
もう一つの問題点は、裁判所と検察庁の役所体質です。再審決定は、大先輩の裁判官の判断を覆すことになります。また検察庁が再審無罪を追認することは、有罪を相当として起訴をした大先輩検察官や検察幹部の判断が誤りだったと認めることになります。今回、検察庁は袴田事件の控訴を断念しましたが、その際の検事総長の談話は要約すると「無罪の判断はおかしいが、時間がかかりすぎているので今回は控訴しません」というものです。判決において、証拠の偽造や捜査姿勢の誤り、そして検察庁の対応などが明確に批判されているのに、無罪となった袴田さんに明確な謝罪をせず、また検察庁の捜査手法や再審対応を反省することもなく、このスタンスの談話しか出せないことが、検察庁の役所体質を端的に表していると思います。