著者のコラム一覧
有森隆経済ジャーナリスト

早稲田大学文学部卒。30年間全国紙で経済記者を務めた。経済・産業界での豊富な人脈を生かし、経済事件などをテーマに精力的な取材・執筆活動を続けている。著書は「企業舎弟闇の抗争」(講談社+α文庫)、「ネットバブル」「日本企業モラルハザード史」(以上、文春新書)、「住友銀行暗黒史」「日産独裁経営と権力抗争の末路」(以上、さくら舎)、「プロ経営者の時代」(千倉書房)など多数。

ニチイHD(下)トラブルの発端は2019年…創業家の相続税対策でファンドの餌食に

公開日: 更新日:

 発行済み株式の3分の2超の買い付けを目標とした。寺田氏の親族や森氏がMBOに賛同(持ち株はトータルで44.04%)。寺田一族は1株1500円で売却して434億円の現金を手にする。相続税を支払い、残った資金を受け皿会社に出資。創業家は非上場会社になったニチイ学館の大株主にとどまり、経営を続けることができるという、創業家にとって願ったりかなったりのシナリオだった。

 ところが、5%未満の株式を持つ香港の投資ファンド、リム・アドバイザーズが、このMBOに異を唱えた。

「納税のために株式を現金化する一方で、公開買い付けによる手取り金の一部を公開買い付け者経由で再投資することで事業に対する支配権を維持したいという創業者親族の思惑により、株価低迷を奇貨としたMBOが強行されたのではないのか」と指摘し、「少数株主の権利を犠牲にしている」と批判した。

 リムは「価格設定が公正ではなく、2400円のTOB価格が適正だ」と主張した。TOB価格は当初1株1500円だったが、リムの揺さぶりもあり、TOB期間を3回延長。7月31日にTOB価格を1670円に引き上げた。

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