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春名幹男国際ジャーナリスト

1946年生まれ。元共同通信特別編集委員。元名大教授。ボーン・上田賞受賞。著書に「秘密のファイル CIAの対日工作」など。

ウクライナの驚異的越境攻撃はロシアの「ブラフ」によって証明された

公開日: 更新日:

(2)ウクライナ戦争

 ウクライナは今月6日に突然、ロシアを越境攻撃し、世界を驚かせた。感心したのは、2大軍事大国、米国とロシアを同時に手玉にとったことだ。

 第1に、プーチン大統領が「ロシアの領土保全を危うくしたら(核兵器を含む手段で)あらゆる手段でロシアを守る」と警告して、示した「レッドライン」をウクライナは無視した。

 第2に、米国製高機動ロケット砲システム(ハイマース)や陸軍地対地戦術ミサイル(ATACMS)など高性能兵器はロシア国内への直接使用が禁止となっていたが、今回使用したとされる。

 いずれの「禁制」も単なるブラフだとウクライナは証明してみせた。

 実は、ウクライナが越境したロシア南西部のクルスク州は、重要な戦略的要衝である。ロシア産天然ガスの欧州向けパイプラインの中継地点がある町スジャはすでに、ウクライナ軍の制圧下にある。軍政事務所も開設したとされる。

 パイプライン基地付近で戦火を交えることになれば、西欧諸国への天然ガス供給が危うくなる恐れもある。またクルスクには原子力発電所もあり、ウクライナ各地の原発と同様、戦闘の推移で危険にさらされる可能性がある。

 ウクライナは昨年、ロシア軍に対する「反転攻勢」を狙ったが、米国が求めた早期攻勢が遅れ、大失敗に終わった。東部・南部4州の奪還は当面難しい情勢となっている。ロシア軍が4州防衛のため堅固な塹壕を築き、地雷原を拡大したためだ。

 米国は実は、対ウクライナ高度兵器提供はゆっくりと適宜行い、ロシアとの関係悪化を避けるというのが本音だという。

 ウクライナのゼレンスキー大統領がこの時点で、大胆な策に出たのはアンドリー・イェルマク大統領府長官の影響力とする説もある。イェルマクは映画プロデューサー出身で大統領とは古い友人。反転攻勢に失敗したバレリー・ザルジニー総司令官や米国に近い閣僚の解任にも関与、大胆な政策や人事が時に話題になる。

 戦争に伴う戒厳令が延長されなければ、ゼレンスキーは5月20日で退任となる可能性もあった。戦争の推移が今後の大統領の支持率を左右する。

■戦局の判断は時期尚早

 今回の越境攻撃では、ロシア軍のさまざまな弱点が表面化した。

 ひとつが、クルスク州のような地方の前線を防衛しているのは徴兵で、士気が高くなく、高度な装備を持たされていないこと。このためウクライナが他に攻撃しやすい地域があり得るだろう。

 ただ、ウクライナ軍の動静情報が侵攻から2週間以後、あまり伝えられていないのが気になる。越境攻撃でウクライナ軍が制圧した地域は8月12日に1000平方キロメートル、同20日に1263平方キロメートルと拡大の割合が低下している。ロシア軍の援軍がクルスク州に到着しているとの情報もあり、激戦となっている可能性もある。戦局の即断は避けたい。

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