著者のコラム一覧
春名幹男国際ジャーナリスト

1946年生まれ。元共同通信特別編集委員。元名大教授。ボーン・上田賞受賞。著書に「秘密のファイル CIAの対日工作」など。

イスラエルの「勝利宣言」を阻むハマス新指導者の名前 米CIAも“危険人物”だと特別チーム発足

公開日: 更新日:

(3)パレスチナ情勢

 イスラエルが最も恐れるパレスチナ武装勢力「ハマス」の指導者は誰か。7月末イランで暗殺されたハマス最高指導者イスマイル・ハニヤ氏ではなさそうだ。

 実は最も危険視されているのは、8月初めにハニヤ氏の後継者となったヤヒヤ・シンワル氏(61)だとされている。

 彼ひとりを殺害もしくは捕獲するため、イスラエル国内治安・情報機関「シンベト」が専門部署を設置し、米中央情報局(CIA)が特別チームを発足させ、米国防総省が専門の特殊部隊をイスラエルに派遣するほどの危険人物だ。知性を備えた武闘派であり、動きも機敏で巧みに身を隠し、行方がつかめないでいる。

■2017年からガザ地区のトップ

 昨年10月7日のイスラエル奇襲攻撃を指揮したのは彼だ。彼はハマスの軍事部門出身で2017年からガザ地区のトップを務めてきた。

 21年、シンワル氏は従来のハマスの路線から外れ、新たな現実主義的傾向を示し始めたと伝えられた。「穏健化」して、イスラエルとの衝突を停止させたとも言われた。それがまさに彼の心理戦略で、イスラエル側の油断を招いた。

 イスラエル政府は、ガザ住民2万人までに労働許可を与えるようになり、カタールは毎月3000万ドル(約44億円)の開発資金を提供してきた。

 シンワル氏は1962年ガザに生まれ、ガザ・イスラム大学卒。イスラエル兵の拉致や殺人で4回にわたり終身刑を言い渡され、計22年間服役、捕虜交換で釈放された。この間、ヘブライ語を学び、イスラエルの政治情勢に詳しくなった。

 奇襲はイスラエル国民の性格や心理を熟知したシンワル氏らしい作戦とみられている。

 奇襲後イスラエルは、対ガザ侵攻に当たって、ハマスの壊滅と全長500キロものトンネルの破壊、それに加えて、シンワル氏と軍司令官モハメド・デイフ氏、副司令官マルワン・イッサ氏の3人の「捕獲か殺害」を目標に掲げた。

 このうちイッサ氏は今年3月にイスラエル軍がガザ中部のヌセイラト難民収容所の地下トンネルを攻撃した際、死亡した。デイフ氏は同7月イスラエル軍の空爆で死亡したと伝えられたが、ハマス側は否定している。

 今年1月31日、シンワル情報を得たイスラエル軍突撃部隊はガザ南部に出撃した。しかしシンワル氏は数日前に、ハンユニス市の地下陣地を後にしていたことが判明した。文書類や総額100万ドル相当のイスラエル通貨シェケルの札束が残されていた。

 シンワル氏が殺害された場合、ハマスは大きい打撃を受けても、組織壊滅は考えにくい。ただ、彼が活動を続ける限り、イスラエルは「勝利宣言」などできないだろう。

【プレミアム会員限定】春名幹男オンライン講座 動画公開中
 https://www.nikkan-gendai.com/articles/columns/4592

【連載】激動国際ニュース どう動く3つの戦い

最新の政治・社会記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    ソフトバンク 投手陣「夏バテ」でポストシーズンに一抹の不安…元凶はデータ至上主義のフロントか

  2. 2

    「負けた」はずの琴桜が「勝った」ウラ事情…疑惑の軍配が大炎上《翔猿がかわいそう》

  3. 3

    大谷が2026年WBCを辞退する可能性…二刀流継続へ「右肘3度目手術」は絶対避けたい深刻事情

  4. 4

    広島先発投手陣に忍び寄る疲労の影…9月は防御率が大幅悪化

  5. 5

    小泉進次郎氏「死ぬまで働け」戦慄の年金プラン “標準モデル”は萩本欽一…なんでそうなるの?

  1. 6

    W杯8強へ森保J「5人の重要人物」 頭痛の種は主将・遠藤航の後継者…所属先でベンチ外危機

  2. 7

    SMAPファン歓喜!デビュー記念のラジオ番組で思い出す「SMAP×SMAP」“伝説の5人旅”と再結成の実現度

  3. 8

    国内男子ツアーの惨状招いた「元凶」…虫食い日程、録画放送、低レベルなコース

  4. 9

    貴景勝は大関最短復帰が叶わずこのまま「引退」か…親方就任の準備はとっくに万端

  5. 10

    《柳田悠岐 #2》人並み以上のスピードとパワーを兼ね揃えていたがゆえの落とし穴