蟹江敬三、ここにあり 迫真演技が堪能できる2本の必見邦画
俳優の蟹江敬三さんが亡くなった。享年69。あまりに突然で多くの人が驚いたと思うが、テレビなどの報道を見ていて大いに気になったことがある。彼の代表作とも言っていい2本の映画がまるで紹介されていなかったのである。
それは79年に公開された2作品、「天使のはらわた 赤い教室」と「十九歳の地図」だ。前者は日活ロマンポルノの一本で、石井隆の劇画原作を曽根中生監督が演出。後者は中上健次の小説を柳町光男監督が演出した。2本ともが70年代を代表する邦画の傑作だと言っていい。この2本に出演している蟹江さんはすごい。この事実にマスコミは鈍感過ぎるのではないか。蟹江敬三ここにあり、なのだ。
■ダメ男ぶりが絶品
「赤い教室」はブルーフィルムのなかで偶然見た名美に恋する男・村木の話である。名美は水原ゆう紀。村木は蟹江さん。悲惨な境遇に堕(お)ちていく名美と、彼女に手を差し伸べられない村木との究極の愛の物語は、圧倒的に見る者の胸を締め付けた。
「十九歳の地図」では新聞販売員のうらぶれた30男を演じた。そのダメ男ぶりが絶品で、「どういう具合に生きていったらいいのか、わからないなあ」という名ゼリフを残した。あんな男になりたくない。けど、人間味あふれるいいやつなんだ。素晴らしかった。