AIからはハートウオーミングまで!ミステリー小説特集

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「しずかなパレード」井上荒野著

 AIは急速に我々の世界を侵食しつつあるが、ミステリーにもついにAI探偵が登場。そんな時代の最先端を行く作品から、心にじわじわと染みる作品まで、今週はさまざまなテイストのミステリーを紹介する。



「しずかなパレード」井上荒野著

 長崎の老舗和菓子店の若女将・晶は、その夜、夫の伸伍にすべてを打ち明け、幼い娘も置いて家を出る。不倫相手の脚本家・武藤の弓張岳の別荘に行くつもりだ。

 その前に立ち寄ったカフェで晶は、居合わせた客がカンフーマンだと気づき、思わず声をかける。カンフーマンは、日曜日にデパート前で派手なメーキャップでパフォーマンスを披露している街の名物男だ。数時間前、晶は引退パレードと称して街中をとぼとぼ歩く彼と出会っていた。晶は男から奇妙なお願い事をされる。

 晶の浮気に気づかず、家を出た理由も分からず、悶々とする日々を過ごしていた伸伍は、思い立って武藤の別荘を訪ねる。応対した武藤は晶との不倫を認めるが、晶が失踪した日は東京にいたと言い、自分も彼女と連絡が取れないという。

 数日後、小倉のホームセンターの駐車場で晶の車が見つかる。

 晶の不在がもたらす関係者の複雑な心模様をそれぞれの視点で描く長編。 (幻冬舎 1870円)

「探偵機械エキシマ」松城明著

「探偵機械エキシマ」松城明著

 大学生の真砂は、AI研究者の指導教授から奇妙な依頼を受ける。探偵事務所の所長・空木と行動を共にして、すべてを記録してほしいというのだ。教授が興味を持つのは、空木がどこからか入手したロボット・エキシマだった。このロボットは、高度な思考能力で殺人を犯した人間を特定し、あらゆる手段でその命を奪おうとする。それを制止することができるのは、唯一の管理者で、エキシマの言葉を通訳できる空木だけだという。

 真砂が、雑居ビルに入居する空木の事務所兼自宅を訪問中、外が騒がしくなり空木と真砂が屋上から見下ろすと、ビルとビルの間の隙間に人が倒れていた。遠く離れたその遺体を確認したエキシマは、死亡時刻は10時間前だと空木に告げる。やがて被害者は同じビルに入居する会社の元社員だと分かる。(「Lost and found」)

 ついに登場したAI探偵エキシマの推理が冴えわたる連作ミステリー。 (KADOKAWA 2035円)

「死んだら永遠に休めます」遠坂八重著

「死んだら永遠に休めます」遠坂八重著

 大手ベアリング会社に勤務する28歳の青瀬は、膨大な業務に加え、派遣社員の仁菜のミスの尻ぬぐいまで押し付けられ、連日深夜まで残業。そんな中、青瀬を苦しめ続けてきたパワハラ上司の前川が、「一身上の都合により失踪する」というメールを残し行方不明に。さらに1週間後、前川の名で「私は殺されました」と社内一斉メールがあり、前川は容疑者として青瀬ら部下4人の名を挙げる。

 身の潔白を証明するには前川を捜し出すしかなく、仁菜に背中を押され青瀬も動き始める。やがて、前川があるコンセプトカフェに足しげく通っていたことが判明。休日に訪ねてみると、前川の推しのヒメノアという女性が、前川が失踪した日に店を辞めていたことが分かる。数日後、ヒメノアが他殺体で見つかる。一方で、怪文書で犯人と名指しされた青瀬は次第に追い詰められていく。

 ラスト1ページまで気が抜けない予想不可能な限界会社員ミステリー。 (朝日新聞出版 1870円)

「口外禁止」下村敦史著

「口外禁止」下村敦史著

 友人も女友達もいない陰キャの大学生・恵介に、ある日、AIを使って「あなたの人生、プロデュースします」というメールが届く。半信半疑の恵介だが、AIの実力を見ると、サッカーの試合結果を事前に予測したメールが次々届く。予測が3試合続けて的中し、信じた恵介が相手に連絡すると、イヤホンとボタン型隠しカメラが自宅に届く。装着してスイッチを入れるとロペと名乗る人物が接触してきた。ロペによると、隠しカメラで恵介の見ている世界を共有してAIと協力して指示や決断を伝えるという。

 数日後、恵介はロペの指示に従って男性に絡まれていた女性・綾音を助け出すことに成功。親しくなった綾音と映画に行った日、盗撮事件に巻き込まれ、犯罪者を見つけて社会的に制裁する配信者の奈良岡と知り合う。2人は逃走した盗撮犯を捕まえるために奈良岡に協力することに。

 ロペの指示通りに行動して人生が逆転した恵介が、不可解な事件に巻き込まれる長編ミステリー。 (実業之日本社 1980円)

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