劇団東演創立60周年記念「マクベス」役者の身体性で魅了
夫にダンカン王(島英臣)の殺害をたきつけるマクベス夫人は神野三鈴。罪の意識に耐えかね追い詰められていく狂乱の演技は身震いするほど。
マクベスに妻子を殺されたマクダフ(南保大樹)と敵を欺くために本心を明かさないダンカン王の遺児・マルコム(木野雄大)、劇団の次代を担う2人の腹を探り合うシーンの力感あふれる演技の応酬、破局に向かって突き進むうねるような演出が見事。
「きれいは汚い。汚いはきれい」という魔女の言葉は今回「悪は善。善は悪」と訳された(翻訳は佐藤史郎)。
「国というよりは、もはや墓場。民衆は馬鹿者でもない限り笑いをなくしました。(略)どれほど悲惨な事件が起きようと人は眉一つ動かさないのです」という劇中のセリフはマクベスの暴政を表したセリフだが、それは今の日本にも通じる。
自信と余裕をなくし、猜疑(さいぎ)心と敵愾(てきがい)心だけが肥大化している今の日本人は魔女の口車やマクベス夫人の挑発にたやすく乗せられるに違いない。マクベスの悲劇は私たちの危うさを内包しているのだ。
4月7日まで、三軒茶屋・シアタートラム。
★★★★