友人の一言で 志茂田景樹さんが作家を決意した3つの出来事
その後、「いつ退院ですか」と院長に聞いたら、「ここは大事をとって1カ月くらいゆっくりしなさい」と言われた。それで早稲田の彼の言葉を思い出して、初めて小説を書いてみようと思ったんです。そしてお見舞いに来てくれた彼が書き上がった原稿を読んで「オール読物新人賞に出せば佳作は取れる」と褒めてくれた。僕にとって2つ目の“その瞬間”でした。
作品を応募したら2次予選までいきました。一生懸命やれば、もしかすると数年後にモノになるかなと思い、新人賞への応募を続けました。
最後に僕の背中を押したのは三島由紀夫自決事件です。三島のニュースを見て衝撃は受けたのですが、日本は平和なのにこんなことをしてどうするの? といった、どちらかというと批判的な気持ちで見ていました。
ところが、例の彼は哲学青年だから、新宿だったか飯田橋のバーに僕を呼び出し、文学論や三島の話をして息巻いていました。彼には三島への強い憧れがあって、興奮していました。話し込んでいるうち時間が過ぎ、そろそろ帰ろうかなという時に、「君は直木賞を狙えよ、僕は芥川賞を取るから」と言われ、別れたんです。そのセリフが作家になると気持ちを奮い立たせてくれました。
これが僕が作家になる3つの瞬間です。それから新人賞を取るまでに6年、直木賞を受賞するまで4年かかりました。彼の名は草間洋一さんといいます。現在、文明工学研究家として活動されています。
(聞き手=稲川美穂子)