中村梅雀さん 外見変えて挑んだ三浦友和さんとのワンシーン
舞台からテレビ、映画へ進出。時代劇をはじめサスペンス、喜劇まで幅広く活躍している中村梅雀さん(63)。大きな転機となったのは三浦友和さんと共演したこの作品だ。
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この写真は1997年3月にNHKで放送された、土曜ドラマ「いのちの事件簿」のワンシーン。この作品は三浦友和さん演じる福祉事務所のケースワーカーと、妻と3歳の娘を抱える生活苦のチンピラヤクザの僕を軸に、単純な善悪では判断できない生活保護の現場を描いた、かなりシリアスなドラマです。
監督・演出はNHK大河ドラマ2作、リリー・フランキーさん主演「一茶」のメガホンを取った故・吉村芳之さん。監督に真っ先に言われたのが「痩せていただけますか」でした。
それまではどちらかといえば福々しい家庭的な役が多かったのですが、この作品は真逆。食いぶちを失い、よその縄張りに手を突っ込んだばかりにリンチされ、さらに困窮する、すさんだ役柄です。娘がかわいくてしょうがないのに愛情を与えられず、もがき苦しむ、平和で温かいものから一切疎外された人物。体形と顔つきを変えてくれというわけです。
求められたのは1カ月で8キロ以上の減量。それで1日1食、ご飯は3日で1合の食事制限を始めたんです。おかずは野菜中心にほんの少し豚バラ肉を散らした鍋だけ。喉の渇きは牛乳かコーヒーでごまかしながら、クライマックスシーンに向けて、さらに険しい表情をつくっていきました。
とはいっても、ヤクザはそれまで演じたことがなくてね。それでヤクザとは?から始めて、石橋蓮司さん、大木実さんら悪役で名の知れた方々に本読みの時にいろいろとお聞きしました。
すると「本物のヤクザは強がらない。だけど怖い」「優しい言葉をかけてきてもすごみがある」とおっしゃる。確かに悪役の方はみんないい人なんです。でも、役に入るとヒリヒリするほどに怖い。同時にさまざまな映像を見ながら生活苦を演出するため、顔つきを研究しました。眉毛を剃り、頭髪はいったん坊主刈りにしてその後は伸ばし放題。
さらに世の中から疎外されてるという心理状態にするには? と考えました。思い出したのが高校時代。同級生に「おまえはいいよな。お父さん(4代目中村梅之助)が稼いでるし、同じ道行きゃあいいんだもんな。俺たちは受験しなきゃならないから大変なんだ」と言われて、一切勉強しなくなった時期があった。
その時に思ったのが「親父の敷いた線路の上は絶対走らないぞ」という反発心みたいな感覚。それを思い出して一切に反抗するように仕向け、さらに当時はまだ僕自身が経済的に恵まれていなかったので、怒りを心の中にため込み、顔つきを険しくしていきました。