「大御所扱いされるってえのも考えもの。まず仕事が減る」
馬風が仲たがいした立川談志と偶然会った場に私は居合わせた。某映画監督が演芸の本を刊行した際の出版記念パーティーの席で、ご両人が同じテーブルに座ったのだ。
落語協会会長に就任したばかりの馬風は、「兄さん。このたび、あたしが協会を束ねることになりました」と挨拶した。しかし、談志はちょっとうなずいただけでそっぽを向いた。当時、立川流顧問の私は談志の隣にいたので、「馬風師匠が会長になったんです」と耳打ちすると、談志は、「トップに立ったということか。そりゃたいしたもんだ」と感慨深げに呟いたものだ。もちろん馬風に聞こえないように。
「そんなことがあったのか。あの兄さんの性格じゃ、面と向かって『おめでとう』とは言えなかったんだろうな」
それでも馬風のことを認めていたのは確かで、本心では仲直りしたかったはず、と拝察する。
「談志一門の連中はずっとうちに出入りしてたからね。左談次、ぜん馬、龍志なんかよく来てたよ。兄さんが知らねえわけないんだ。きっと黙認してたんだろう。仲直りできなかったのは、俺も心残りだね」