3本の映画で理解を深めたい アメリカの人種差別問題
黒人のジョージ・フロイドさんが白人警官に殺されてから約1カ月。全米に広がった抗議運動はいまだ収まらない。一部地域ではコロンブスの像が倒されるなど破壊活動が続き、事態を収拾できないトランプ大統領の再選まで危ぶまれている。それどころかツイッターでは「略奪が始まれば、発砲が始まる」などと挑発し、火に油を注いだ張本人といわれる始末だ。
米国ではこれまでも、黒人への差別や暴力に端を発した暴動が繰り返されてきたが、そうした悲劇を忘れずに教訓とすべく、さまざまな文化芸術作品が作られてきた。その背景や作品について映画評論家の前田有一氏が解説する。
「今の米ショービズ界は人々の分断をあおるトランプ大統領に批判的ですが、特に今回のツイートは、1967年にマイアミ市警の本部長が黒人社会を脅して大問題になった発言と同じ言い回しだったため、レディー・ガガら多くのセレブが激しく批判しました。この年はデトロイトで大規模な暴動が起きて、どれだけ非人道的な所業が行われていたかは映画『デトロイト』(2017年、米)に詳しい。しかもこの映画が製作された理由は、14年に起きた18歳の黒人少年マイケル・ブラウンが白人警官に射殺された事件に対するキャスリン・ビグロー監督らの怒りと問題提起です」
■30年以上前に“首絞め”の残虐性を糾弾したスパイク・リー監督
舞台は67年のデトロイト。白人とのトラブルを端とする黒人社会の暴動が激化する中、発砲事件の疑いをかけられたモーテルの黒人滞在客らが、白人警官から拷問のような尋問を受ける。実話をもとにした映画で、理性を失った警官から延々と自白を強要される黒人たちの恐怖を、ジョン・ボイエガらキャストが迫真の演技でみせる。
「監督と脚本家はオスカー受賞の実力者コンビで、暴動の緊迫感を見事に表現したと評価も高い。とはいえハリウッドでも黒人差別は根強いとされ、これまで多くの監督らが人種差別意識の改善を訴えてきました。その筆頭は業界の異端児といわれる鬼才スパイク・リーで、今回のジョージ・フロイドさん殺害事件についてもいち早く声を上げ、追悼の短編動画を発表しました。その彼が、こんにちの惨状をほぼ正確に“予知”したと評判の映画が『ドゥ・ザ・ライト・シング』(89年、米)です」(前田氏)
多人種が共存するNY・ブルックリンでイタリア系移民が経営するピザ店を中心に、ささいないざこざがやがて破滅的な結末を招くまでを描いた群像劇。黒人地区の知られざる日常生活をかつてないほど丁寧かつリアルに描いて衝撃を与えたが、注目すべきは白人警官に首を圧迫された黒人が窒息死したのを機に暴動が勃発する、今回の事件と寸分たがわぬ展開だ。