司会は下北沢の安アパート暮らしの坂崎幸之助だった
午後2時にコンサートが始まった。司会は下北沢の安アパートに住んでいた無名のミュージシャン。坂崎幸之助。あのアルフィーの坂崎である。
ステージの上に「第1回下北沢音楽祭」の横断幕。黒くて大きなスピーカーが、左右に3連ずつ置かれた。出演者はカルメン・マキ&ナイトストーカー、RCサクセション、あがた森魚、山岸潤史セッション、ダディ竹千代&東京おとぼけCATSなど全16バンド・総勢60人。詰め掛けた観客2000人が熱狂した。
夜になって照明がともった。驚くべき光景が見られた。ステージに向かって右側の築堤を走る井の頭線の車両が、次々と徐行運転するではないか! 電車の窓を開けてステージに向かって手を振る乗客。電車を見上げながら手を振り返す観客。
徐行運転どころか、ついに一時停止する電車まで現れた。初日のトリを務めたカルメン・マキとCharのステージは、アンコールの声が10回以上も鳴りやまなかった。
翌日の新聞に「電車を停めた音楽祭」という見出しが躍った。当時としても、あり得ない事態の連続に、今でも都市伝説として語り継がれている。