「天保水滸伝 笹川の花会」は大好きな一席
軍記、怪談、世話物……今さらそんな昔の話を聞いて何が面白いのか。そんなふうに思う人も中にはいるはずだ。松鯉師匠に改めて講談の魅力、聞きどころを、あまたある中から紹介してもらった。
「講談には『男の美学』があります。惻隠の情という潔く美しい日本人の心とか。たとえば『天保水滸伝』は江戸時代の博奕打ちの話です。その中の『笹川の花会』は私が大好きな一席です」
江戸時代の博奕打ち、笹川繁蔵と飯岡助五郎は激しい縄張り争いで対立を深めていた。そんな中で笹川繁蔵が花会を開いた。花会は博奕打ちが祝儀を目的に開く催事のこと。対立している飯岡助五郎のところにも、もちろん案内がくる。博奕打ち同士は義理と人情の世界、花会を開くと聞いて行かないわけにはいかない。
ところが、助五郎は気乗りしない。「あんな青二才の花会にこの俺が行くこたねえ。政、俺の代わりにおまえが行ってこい」と子分の政吉に言いつける。
「俺の名前で5両、子分一同の名前で3両、これをおまえに預けるから、持って行ってこい」