「天保水滸伝 笹川の花会」は大好きな一席
「わかりました」と花会に向かった政吉。笹川繁蔵の家に入ると、大広間には関東一の大親分、大前田栄五郎をはじめ、国定忠治ら、大親分の姿がズラリ。すっかり威圧されてしまった政吉、部屋の鴨居を見ると、居並ぶ親分の名前で「金50両、身内一同30両」と書かれた義理の金額が張り出されているではないか。
このままでは、「飯岡助五郎5両、身内一同3両」と張り出され、助五郎が大恥をかいてしまう――。政吉は居ても立ってもいられない。「困ったな」と下を向いていると「飯岡からの義理でございます」と助五郎の金額が張られる。「飯岡助五郎50両と身内一同30両」。それを見た政吉はその場で起きたことをのみ込むことができた。助五郎が万座の中で恥をかかないように繁蔵が金額を差し替えてくれたのだ、と。政吉には金額の書かれた字が涙でにじんで見えた。たとえ敵の親分であっても政吉は繁蔵をありがたく思った。
「こんなふうに相手をおもんぱかる話や格調のある話が講談には数多くあります。話を聞いて自分もこういう生き方をしたいと思ってくださる人もいるのです」
「男の美学」の一席を寄席で。
(構成=浦上優)