元AKBが独学で開業した繁盛ラーメン店の「味の秘密」
梅澤愛優香さん(24)は高校3年生のときに、バイトAKBのオーディションに合格。約半年ほどアイドル活動をしていた梅澤さんは、独学で大好きなラーメンを研究。20歳にして、ラーメン店「八雲(現・麺匠 八雲)」(神奈川・大和)をオープン。現在、「麺匠 八雲本店」(東京・葛飾)、つけ麺店「中華蕎麦 沙羅善」(神奈川・北鎌倉)を含め計3店舗を経営。修行経験なしで繁盛店を作り上げた、今最も注目されている飲食店経営者が、著書「ラーメン女王への道―アイドルから店主への創業奮闘記」(さくら舎)で快進撃の秘訣を語っている。
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バイトAKBの活動時は、せっかく東京に行っていたので都内のラーメン屋さんに寄りたい気持ちはもちろんありましたが、帰宅時間が遅くなってしまうことを考えて、ほとんど寄り道せずにいつもまっすぐ家に帰っていました。それに、AKB劇場がある秋葉原は、ラーメン屋さんが多いので、もし食べ歩きができたら最高だったのですが、劇場の近くでぶらぶらするのは禁止だったので食べ歩きはできなかったんです。
アイドルと高校を卒業したあとは、時間とお金に余裕ができたので、生活圏内で楽しんでいた趣味のラーメンの食べ歩きの範囲を広げて、いろいろな有名店に行くようになりました。
厨房が見えるつくりのお店ではそっと様子を観察させてもらって、忘れないようにメモをしていました。
メモの内容は、使っている具材や器材、調理方法、そのお店のラーメンのトッピングの内容や味の印象、そのほか自分のラーメンに取り入れられそうなことはなんでも。ちなみにこのメモの習慣はいまでも続いていて、ラーメン屋さん以外でもよくメモを取っています。
味の印象でよくメモするのは、口に入れたときの最初の印象とそのあとの変化です。食べ物は舌にのせる位置で味が変わるんです。手前は塩味が強く、奥は甘味が強く感じられるので、舌のどの位置で美味しく感じるかや、舌先とほかの場所での味の変化に注意しています。
スープが一番わかりやすいですね。スープは、食べ始めてから時間が経つとトッピングの味がスープに出て味が変わってしまうので、早めによく味わっておくのがポイントです。
麺は喉越し。風味と舌触りから「小麦粉はあれを使ってるのかな?」などと材料を想像しながら食べ、「卵感が強いな」といった味の印象や、食べたあとに鼻から抜ける感じなどもメモしています。
そう、味の印象は口の中で感じるものだけでなく、鼻のあたりに抜ける感じも重視しています。広い意味での味覚には嗅覚も含まれるので、五感を総動員して味わうんです。丼を持ち上げて、湯気をかいでみたりもします。
でももちろん、ラーメン自体を楽しみたいので長々と分析はしません。まずはきちんと味わって食べて楽しんで、その合間に味の分析もしている感じです。
少しずつ自分の狙った結果に近づけていく
このころは、お店での食べ歩きだけでなく、インターネットでラーメンづくりの様子を映した動画も探して見ていました。ラーメンのレシピが載っている本も読んで参考にして、いろいろな情報を仕入れては、気になったものを自分で実際につくって確かめていたんです。
だから私のラーメンは、特定の店の何ラーメンを参考にした、どこの店のレシピから学んだというよりも、いろいろなところからいろいろなものを少しずつ吸収していった感じです。大まかなつくり方はインターネットに公開されているものから学んで、そこから試作を重ねて、ディテールは自分で工夫して突き詰めるというのが私の独学スタイルでした。
食材のことも調べ始めて、地方にしかない食材なども取り寄せるようになっていきました。いまお店で使っている食材の中にも、10代の試作期に見つけて定着したものもあります。
味噌だれは味噌、すりごま、一味、みりん、ニンニクなどを合わせてつくるのですが、一番むずかしかったのは、材料を決めることです。すりごまひとつとっても種類がいろいろありますから、片っ端から取り寄せては試してみて、香りやザラつき具合、スープと合わせたときのスープに浮いた感じなどが、一番いいなと思えるものを探しました。
一味も香りを重視して、あとは子どもでも食べられるように、辛さがあまり強くないかどうかを気にして探しました。ラーメンのように熱くして食べる場合は、一味の辛さが引き立つので、あまり辛みが強くないほうがいいと思ったんです。
みりんもあまり甘いものを使うと全体が甘くなってしまうので、甘味がちょうどいいものを探しましたが、これもむずかしかったですね。味噌だれに使うみりんだけでも、8種類くらい試しました。
各材料を組み合わせると何百通りにもなりますが、それをひとつひとつ、少量ずつつくって試してみて、消去法で使わないものを消していくうちに、だんだん満足のいく味の味噌だれができあがっていきました。私は学生時代理科の実験が好きで、指定されたとおりにきっちりと計量を行い、結果を出すのが得意でした。ラーメンの味づくりはなかなか思うような結果にならないところがむずかしいのですが、条件を変えていろいろ試して、少しずつ自分の狙った結果に近づけていく過程は理科っぽいなと思っています。 =つづく
<「ラーメン女王への道―アイドルから店主への創業奮闘記」(さくら舎)から>