駒沢公園で山口洋子の車椅子を押す野口修…晩年の老老介護
拙著「沢村忠に真空を飛ばせた男/昭和のプロモーター・野口修評伝」(新潮社)の著述において、当然のことだが主人公の野口修に綿密な取材を行った。
2010年3月の開始当初は、ノンフィクションというよりインタビュー形式の体裁をとろうと考えていた。証言を中心にまとめることでさしたる検証を必要としない、その上コストもかからず時間も短縮できる。当世、多くのインタビュー本が巷にあふれるのは、主にこういった事情によるものとみていい。
当の野口修は多くの質問に口をつぐんだ。思い出したくもない過去を進んで話す人はいない。気持ちは分かるのだが、それでは書籍にならない。そもそも版元すら決まっていない見切り発車だった。筆者自身著名ではないし、これといった実績もない。野口修もかつては天下を制したプロモーターだったが、世間から完全に忘れ去られていた。無名の著者と忘却のかなたにいる主人公にとって現代の出版不況は二重三重のハンディとしてのし掛かった。