駒沢公園で山口洋子の車椅子を押す野口修…晩年の老老介護
白人女性とすれ違うように、ジョギングコースの向こうから車椅子を押す男性が見えた。乗っているのが老人なら押しているのも老人のようだ。“老老介護”である。青の線の入ったネルシャツに薄い紺色のパンツという、高齢者にしてはカジュアルな装いの夫が、座る妻に何やら話しかけている。妻は無表情である。
車椅子が筆者のベンチに近づいてくると、見覚えのある銀縁の老眼鏡が目に留まった。野口修だった。となると、車椅子の女性は山口洋子……。野口修は1時間後に会う筆者に気付くことなく、車椅子を押しながら静かに遠ざかった。
1968年に出会った2人が、2012年に車椅子を押し押される間柄になるまで、どれだけの物語を紡がねばならないのだろう。
次号からは、野口修と山口洋子の数奇な関係について出来うる限りつづってみることとする。(つづく)