<134>弁護士風を吹かせることもなく…同志2人を得た喜び
小料理屋でビールを飲みながら、私は野崎幸助さんの事件の経緯について、渥美・松永両弁護士に説明をしていった。過払い金の不正や遺言の秘密、そしてアプリコの金を持ち出している連中のこと……。それに耳を傾けている2人の反応は、私が想像した通りだった。これだけの類を見ない案件に興味を示さないほうが不思議だと思っていたが、彼らの態度は私を満足させるのに十二分だった。
30代半ばの2人は弁護士風を吹かせることもなく、謙虚に私の説明に耳を傾けてくれていた。もし、肩で風を切っているようなタイプの弁護士だったら私は相談するのをやめようと店に来る前に密かに思っていたが、それは全くの杞憂であり、私は古くからの同志と久しぶりに会ったような感覚すら抱いていた。
「ドン・ファンの遺族(親族)は高齢の方々で、いまさら争うという気持ちはありませんし、遺産が欲しいとかいう気持ちは全くありません。遺族たちが暮らしている田辺市は小さな町ですからお金目当てというようなウワサを立てられるのも嫌なんです。私は遺族に対し遺言無効の裁判を起こして欲しいのですが、なかなか首を縦に振ってもらえません。訴訟費用もバカになりませんからねえ。着手金はナシで、成功報酬だけでこの案件に参加していただけませんか?」