追悼・宝田明さんが取材に語った反戦と平和「時の政府におべっか使う必要なんてない」

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 俳優の宝田明さんが14日、肺炎のため87歳で亡くなった。出演と製作を務めた映画「世の中にたえて桜のなかりせば」が4月1日に公開となるが、最後まで映画作りの現場に立ち続けた芸能人生だった。

 宝田さんは1953年、東宝ニューフェース6期生として映画「かくて自由の鐘は鳴る」でデビュー。同期には岡田真澄や藤木悠、佐原健二らがいるが、長身かつハンサムな見た目から、華やかで東宝のイメージを最も体現するスターといわれた。

 中でも初主演作「ゴジラ」は東宝にとって歴史に残る大ヒット作で、現在もハリウッドなど全世界に向け新作が供給され続ける、日本を代表するコンテンツとなっている。

 宝田さんは巨大生物調査団の一員で若き研究所長を演じているが、ゴジラを研究材料として観察しようとする意見に対し、人々の安全を優先すべきと反論する正義感あふれる姿が印象的だ。

 60年代以降はミュージカル俳優の草分けとして、「アニーよ銃をとれ」「サウンド・オブ・ミュージック」など日本の舞台ミュージカル黎明期を支えた。80年代には自ら養成学校を設立して、若手を育てる活動までしていた。怪獣特撮映画にしろ舞台ミュージカルにしろ、今でこそ東宝を代表するコンテンツとして確立しているが、その礎には宝田さんの存在と活躍がある。

■80代で華麗なステップを披露

 とくに宝田さんがこれらのファンにリスペクトされているのは、若手から大御所になった後も、こうしたジャンルへの愛と情熱を失わずに出演し続けていたからだ。ゴジラシリーズはもとより、19年のコメディー映画「ダンスウィズミー」では、すでに80代でありながら華麗なステップで歌い踊るミュージカルシーンを演じていた。期せずして三吉彩花演じる主人公のOLに催眠術をかけてしまう怪しげな催眠術師の役だが、どこか憎めないノーテンキな役柄を、楽しそうに演じる姿が笑いを誘った。

 昭和の芸能界を代表する大物スターだというのに気さくで優しい人柄は、彼を取材した人が口をそろえる特徴でもあった。私がかつてインタビューしたときも、こちらが事務所の扉を開いた途端、スクリーンの中とおなじ笑顔で歩み寄り、力強く握手をしてくれた。そのスマートなふるまいはどこか日本人離れした格好良さで、終始和やかなムードで話してくださった。あのような温かい雰囲気の取材現場はいまだに見たことがない。

「若い人は言いにくいだろうから、僕らの世代が言わなきゃ」

 一方、反戦と平和についての思いは誰よりも強く、自身の意見を発言し続けた人でもあった。取材当時は安倍政権全盛時だったが、集団的自衛権を強行に閣議決定し、9条改憲に突き進む政府を名指しで批判していた。戦争中、ソ連兵に腹を撃たれ死の恐怖を味わった体験を背景にした言葉には説得力があり、断固としてゴジラの脅威から人類を守ろうとする映画での姿と重なって見えた。

 当時は政府批判をしたキャスターや文化人が次々と干され、政治的発言については皆が躊躇していた時代。だが宝田さんは「時の政府におべっか使う必要なんてない。でも若い人は言いにくいだろうから、僕らの世代が言わなきゃね。どうせ10年も生きられないんだからさ」と、おなじみの人懐っこい笑顔で語った。

 最後の言葉は残念ながら現実となってしまったが、彼が生み出した作品そして文化は永遠に生き続ける。宝田さんがその場でノートに書いてくれた反戦の歌「私の願い」の一節を引用し、追悼としたい。

 戦争となれば人は憎しみが増してゆく
 それをぬぐい去ることはもう出来ない
 それを止めるのは私たちの一人一人のちから
 それを止めるのは私たちの果たすべき使命

(映画批評家・前田有一)

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