水島新司さんは“球界の大予言者”だった!「二刀流」ほか漫画エピソードが次々現実に
野球漫画の巨匠、水島新司さんが亡くなった。82歳。18歳のデビュー以降、2020年の引退宣言まで63年間の執筆生活で残した名作は数知れず。「ドカベン」「あぶさん」「野球狂の詩」など野球漫画一筋に書き続けた。
ライバルの漫画家・ちばてつやさんが、追悼コメントで「監督や控え選手などを含むベンチワークまで綿密に描ききり、プロ野球選手をうならせるほど専門的な目線で野球の『可能性』と『面白さ』を探り続けてきた」と指摘した通り、その作風は球界や実在の選手たちにも多大な影響を与えてきた。
それゆえ、漫画で描いたエピソードが、のちに実現するケースが多々あり、水島さんは“大予言者”でもあったのだ。
松井の5打席連続敬遠も、札幌ドーム誕生も
【5打席連続敬遠】
最も有名なのはこれ。「ドカベン」の山田太郎が高2春の甲子園で、江川学院の投手・中二美夫から5打席連続敬遠されるシーンだ。1992年夏、星稜高の松井秀喜が明徳義塾戦で5打席連続四球と勝負を避けられ、現実世界で再現した。この時の松井の平然とした態度が「山田太郎そっくりだった」とし、水島さんは松井の大ファンになったという。
【50歳の現役投手】
「野球狂の詩」で活躍した岩田鉄五郎の初登場時の年齢は50歳。これも2015年に中日の山本昌投手が達成した。2人とも晩年は技巧派のサウスポー。ちなみに「あぶさん」の主人公、景浦安武は62歳まで現役を続けたが、この記録は当分、破られそうにない。
【二刀流】
87年連載開始の「ストッパー」では主人公の三原心平がプロ野球選手として、1番センターとストッパーの両方をこなす二刀流選手として描かれた。大谷翔平は昨年メジャーで「1番・投手」を実現。MVP獲得など水島さんの予言を上回る大車輪の活躍を見せた。
【高校最速163キロ】
水島作品で高校生最速は「大甲子園」で青田高校の中西球道が記録した163キロ。当時は「まさか」の球速だったが、19年に岩手・大船渡高校の佐々木朗希の投じた1球が同じ163キロを計測し、現実が漫画に追いついた。
ほかにも81年連載開始の「光の小次郎」で、東京ドームの完成(88年)前から「札幌ドーム球場」と北海道を本拠地とするプロ野球球団を描き、23年後に実現──など先見の明には舌を巻く。野球狂の詩に「女性初のプロ野球選手」を登場させてから、もうすぐ半世紀。91年にプロ野球規約の「女性制限」はとうに撤廃されており、「未来の水原勇気」の登板をきっと、水島さんも天国で心待ちにすることだろう。