GW興行注目の2本「ファンタビ」「名探偵コナン」は過去の栄光を“上書き”する出色の出来映え
やはり、強力シリーズものは強い。このゴールデンウィーク興行に向けて、2本の新作が他作品を圧して大ヒットしている。公開順に、「ファンタスティック・ビーストとダンブルドアの秘密」(4月8日~、以下「ファンタビ」)と「名探偵コナン ハロウィンの花嫁」(4月15日~、以下「ハロウィンの花嫁」)だ。最終興収では、前者は50億円以上、後者は90億円以上が視野に入る(現時点での推定)。
もし、上位2作品が50億円以上をクリアできれば、50億円以上が3本あった2019年のGW興行に次ぐ。コロナ禍以降ではもちろん最高水準となる。
強力シリーズものが強いのは別段目新しいことではない。今の国内の興行では、興収上位作品には多くのシリーズものが入る。昨年では邦画上位20本中、10本がシリーズものだった。しかも高興収になるほどシリーズものが増える。だから、このGW興行に向けて、さきの2本が突出しても何ら意外性はない。
というより、シリーズものだから、そこまで数字が伸びていくといったほうがいい。もともと認知度、信頼度が抜群なのだから、興行の土台が確固としてある。さらに作品の評価が高いとなれば、興行のパイは膨らんでいく。
■ヒットにあぐらをかくことなく挑戦する姿勢
今回、興味深く感じたことがある。2本ともに作品の質が向上していることだ。人によって受け取り方は違うが、筆者は両作品ともに非常に面白く見た。興奮さえした。シリーズものだからといって、ヒットにあぐらをかいてローテーション的に作られているのではない。その都度、話の展開、見せ場の構築、俳優(登場人物)の布陣など、製作に細心の工夫が施されているはずだ。
当たり前の取り組みかもしれないが、その実現ができそうでなかなかできない。過去の栄光にしがみついて作品のテコ入れができず、結果的にじり貧になっていくシリーズものも多い。
「ファンタビ」で出色だったのは、悪役を演じたマッツ・ミケルセンの起用だ。強靭そうな大柄な体躯の持ち主にして威圧感のある風貌が、悪役にピッタリで圧巻だった。1作目、2作目とジョニー・デップが演じた役だが、ミケルセンはデップとはまるで質の違った渋みと凄みを持ち、シリーズの悪役スタイルに新境地を生んだ。
この人が登場すると画面が引き締まる。映画が躍動する。優しい風貌、柔らかな素振りのダンブルドア役のジュード・ロウとは、絶妙な俳優“カップリング”といえよう。冒険活劇、アクションなどの娯楽大作では悪役の存在が重要である。「ファンタビ」はミケルセンの登場により、これまでとは一味違ったパワーアップができたとみる。
「太陽にほえろ!」へのオマージュか
一方、「ハロウィンの花嫁」で目を引いたのは、「警察学校」出身の5人組にスポットが当たったことだ。なかの2人の役名にハッとする。松田陣平と萩原研二という。明らかに、松田優作と萩原健一を彷彿とさせる。シリーズで2人の名をともに見るのは初めてだ。
あえていわないが、2人が置かれた設定をそこに重ねれば、これは往年の人気ドラマ「太陽にほえろ!」へのオマージュと考えても、あながち間違いではなかろう。さらに今回、音楽担当は大野克夫から菅野祐悟に代わった。であれば、本作は「太陽にほえろ!」の音楽担当でもあった大野克夫への長年にわたる感謝の気持ちも、オマージュに込めたのかもしれない。
これをもって、作品の質の向上とはいい過ぎではないかとの意見もあろうが、そうは思わない。オマージュは作品全体の質の変化にも通じる。ハードなアクション描写が多いように見えるのは、刑事ドラマの核心部分へ、映画が舵を切っていることの証でもあろう。その分、ほのぼのとした軽妙な味を持つシーンが減ったのだが、それは致し方ないところだと思う。
質的な変化、向上を目指すことで、絶えず人気シリーズのあり方を揺り動かす。「ファンタビ」「ハロウィンの花嫁」ともにそれが顕著に出ていて感動したのである。今後の興行にどう影響を与えるのか。注目点の一つがそこにある。