ウクライナ人プロデューサーが映画「チェルノブイリ1986」に込めた“プーチン批判”
86年、ソビエト連邦のウクライナ。原発の爆発事故を受け、消防士のアレクセイ(ダニーラ・コズロフスキー)は、地下構造を熟知する立場から水中の排水弁を開ける決死隊に志願しろと迫られる。キエフへの異動が決まっていた彼は一度は固辞するが、恋人の息子が重度の被曝をうけたことを知り、その治療と引き換えに燃え盛る現場へと向かうのだった。
本物の原発内で、実際に無数のガストーチを燃やして演出された火災シーンは迫力満点。フリマや骨董店で当時の衣装や小道具を集めて再現された80年代のウクライナの美しい街並みも、戦争中の今見ると胸に迫るものがある。決死隊となった消防士らの家族愛やドラマも感動的だ。
「愛国美談と思われがちですが、製作者のアレクサンドル・ロドニャンスキーは『裁かれるは善人のみ』(14年)、『ラブレス』(17年)などロシア社会の闇を描いてきたウクライナ人のプロデューサー。プーチン大統領からはゼレンスキー氏と並び“好ましからざる人物”としてマークされているほどです。本作もロシア政府の協力を得つつも、見る人が見れば体制批判のメッセージを込めたシーンがあることがわかります」(前田有一氏)
原発事故も戦争も、死地に送られ後始末をさせられるのはいつも名もなき人々だ。あまりにタイムリーなロシア発の問題作といえるか。