「お芝居の経験を落語に生かそうなんて考えてませんでしたが…」
この数年、昇太がテレビドラマ、映画、舞台に、俳優として出演する機会が増えた。
「僕の大学時代は小劇場ブームで、第三舞台とか夢の遊眠社とかを見に行くと、若者の観客で満席でした。チラシもきれいでかっこよくて、いいなあって思ってました。それに比べて落語は、人気がなくてお客さんも少なかった。落語会のチラシは金をかけないから、わら半紙みたいなのに単色で安っぽい(笑)」
ならばどうして俳優でなく、落語家の道を選んだのか。
「落語って一人でやるもんだから、成功すれば僕一人の手柄で、受けなかったら僕が悪いってことになる。わかりやすくていいなあと思ったんです。芝居は失敗した場合、誰が悪くてダメだったのかはっきりしない。それに、落語家として売れたら、芝居の仕事も来るだろうと。それが現実になったわけです」
お芝居をやったことが落語の役に立った
三宅裕司が座長の熱海五郎一座の新橋演舞場公演は、毎年6月に催されている。8回目の今年は5月29日から始まる。演題は、「任侠サーカス~キズナたちの挽歌」。
「お芝居で経験したことを落語に生かそうなんて、最初っから考えてませんでした。ところが、三宅さんの演出が凄かった。公演中に直しが入る。同じセリフでも、ちょっと順序を入れ替えたり言い回しを変えるだけで、観客の笑いの量が違ってくるんです。それって、落語にも応用できるなと。登場人物のセリフの順序を変えたら笑いが増えるのか、やってみたら変わるんです。結果的に、お芝居をやったことが落語の役に立ったわけで、三宅さんには感謝してます」
どんなに落語以外の仕事が増えても、噺のクオリティーが落ちないのは、そういうことがあったからだと納得した。
「毎年、女優さんがゲスト出演するのも楽しみのひとつです。他の共演者はおじさんばっかりですから。ちなみに今年のゲストは浅野ゆう子さん。多くの方に新橋演舞場へ見に来て欲しいです」 (つづく)
(聞き手・吉川潮)