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佐高信評論家

1945年山形県酒田市生まれ。「官房長官 菅義偉の陰謀」、「池田大作と宮本顕治 『創共協定』誕生の舞台裏」など著書多数。有料メルマガ「佐高信の筆刀両断」を配信中。

山田太一と木下恵介を結びつけた映画監督・吉田喜重

公開日: 更新日:

吉田喜重(2022年12月8日没 享年89)

 吉田は、小津安二郎にからまれたことがある。

 世界の小津が59歳の時、酒席で新人監督の吉田にこんな言葉を投げかけた。

「俺はな、橋の下で菰(こも)をかぶって春をひさぐ夜鷹なのさ。吉田君、君は橋の上にいるのだろう。君に俺のことがわかってたまるか」

 東大出で観念先行に見える吉田に、小津はこう言わずにはいられなかった。

 この時、吉田はまだ29歳。同じ言葉を繰り返す小津を前に吉田は黙って酒を飲むしかながった。

 小津を描いた高橋治の『絢爛たる影絵』(文藝春秋)のとりわけ印象的な場面である。

 見るに見かねて間に入ったのが、小津より9つ年下の木下恵介だった。

「小津さん、あなたは大監督なんだからおやめなさい。若い人が古い人の作るものをあれこれいう。それは後から来た人間の権利じゃないですか。それを禁じたら批評精神は死にます。まして小津さん、小津さんは権威なんだから余程気をつけないと恫喝になりますよ。笑いとばすぐらいの度量がなきゃいけません。あなただって昔は吉田君と同じような映画作りをやってたじゃないですか」

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