「時代とFUCKした男」加納典明(3)常識をどれだけ外れるか、時代をどれだけ裏切るか。それが自分の価値観
警視庁が来て「この写真はおろせ」
加納「いや全然。僕の意識の中で変わっていないですね」
増田「そうなんですか」
加納「もちろん。これからもやってやろうと思ってます。要するに時代に沿ってちゃだめだと。いかにその時代を裏切るか、そしてその業界を裏切るか、やっていること自体を裏切るかということは、一つの僕のテーマでもありますね」
増田 「写真集『FUCK』は実業之日本社で発行部数を刷ったあと、取次の自主規制で発売されなかったとか」
加納「そうですね。それでそのタイトルで個展をやって話題になって、警視庁が来て『この写真、2点おろせ』と」
増田「1969年にすごいですね。今回こうして詳しく聞いていて思うんですが、あの時代にニューヨークで草間彌生さんと典明さんがクロスしたって、奇跡的なことですよね」
加納「うん。そうかもしれない」
増田「草間さんはあの前後から一気に世界的な芸術家になっていきます。あのときニューヨークでもっと草間さんと仕事をしたかったと思ったことはないですか」
加納「うん。思ったよ。後ですごく後悔した」
増田「オーラみたいなのがあるんですか。やっぱり」
加納「ありますね。人と会ってる感覚じゃないんですよ。たとえばいま俺は増田さんと会ってます。すると増田さんがどう俺を見てるか、どう考えてるかって、ある程度想像つくじゃないですか。それが一切できないっていうか」
増田「才能が横溢しているような」
加納「そうですね。すごい人ですよ」
(第4回につづく=火・木曜掲載)
▽かのう・てんめい:1942年、愛知県生まれ。19歳で上京し、広告写真家・杵島隆氏に師事する。その後、フリーの写真家として広告を中心に活躍。69年に開催した個展「FUCK」で一躍脚光を浴びる。グラビア撮影では過激ヌードの巨匠として名を馳せる一方、タレント活動やムツゴロウ王国への移住など写真家の枠を超えたパフォーマンスでも話題に。日宣美賞、APA賞、朝日広告賞、毎日広告賞など受賞多数。
▽ますだ・としなり:1965年、愛知県生まれ。小説家。北海道大学中退。中日新聞社時代の2006年「シャトゥーン ヒグマの森」でこのミステリーがすごい!大賞優秀賞を受賞してデビュー。12年「木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか」で大宅壮一ノンフィクション賞と新潮ドキュメント賞をダブル受賞。3月に上梓した「警察官の心臓」(講談社)が好評発売中。