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内田正治タクシードライバー

1951年埼玉県生まれ。大学卒業後、家業の日用品、雑貨の卸会社の専務に。しかし、50歳のときに会社は倒産。妻とも離婚。両親を養うためにタクシードライバーに。1日300キロ走行の日々がはじまった。「タクシードライバーぐるぐる日記」(三五館シンシャ)がベストセラーに。

(30)忘れられない「赤の思い出」…おめでたい出来事もタクシーの中では話は別

公開日: 更新日:

■「大丈夫、いいの、いいの」と母親

 色といえば、私には「赤の思い出」がある。あるとき、母親と娘さんのお客を乗せた。娘さんは小学校3、4年生といった年ごろだ。乗車中、私はとくに会話を交わすことはなかった。目的地に着いて料金の支払いをしていると、その娘さんが戸惑い気味の表情を母親に向けて小さな声で「おかあさん」という。「大丈夫、いいの、いいの」と母親。一瞬「?」と私は思ったが、単なる親子の会話だろうとそのときは気にも留めず精算をすませた。「ありがとうございました」と私はドアを閉めクルマをスタートさせた。

 2、3分走った後、私は「座席に前のお客の忘れ物でもあったのか?」と思いクルマを止めた。運転中、よほど大きなものでないかぎり、ドライバーは後部座席の忘れ物に気づくことはない。

 クルマを降り、後部ドアを開けてみると、座席の白いシートカバーの上に半径5センチほどの赤い染みがある。「そういうことだったのか」と私は理解した。おそらく娘さんは初潮を迎えたのだろうと……。このままでは商売にならない。私はなんだかむなしい気分のまま、表示灯を「空車」から「回送」に切り替え、いったん営業所に向かった。

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