「汝、星のごとく」 凪良ゆう著
瀬戸内の島の高校で知り合った男女が恋に落ちるところから始まり、卒業後に夢をめざして東京に行った男と、島に残った女の遠距離恋愛が始まっていく。こういう初恋物語はこれまでにたくさん書かれ、たくさん読んできた。つまり新味のないストーリーだ。そう言っていい。男の仕事がなかなかうまくいかないことの焦りも、2人のズレが徐々に生じてくることも、こういう場合の常套的な展開といっていい。
では、本書は退屈な小説なのか。違うんである。とてもスリリングで、奥が深く、鮮やかな印象を残す小説なのだ。なぜか。
本書の冒頭1行を引く。
「月に一度、わたしの夫は恋人に会いにいく」
たった4ページのプロローグで語られるのは、暁海が北原先生と結婚していて、先生は月に1度恋人に会いに今治に行く風景だ。先生の娘の結ちゃんもそして暁海も、それを普通に受け止めている。
この光景がずっと残り続けるのだ。そこから始まるのは暁海と櫂の恋物語で、北原先生はわき役にすぎない。櫂と別れた暁海が年上の先生と結婚するだけの話を(これもよくあるパターンだ)凪良ゆうが書くわけがない。
つまりこのプロローグが語るのは、これから始まる物語は普通の恋物語ではないぞという作者の強い宣言だ。そして、たった一度きりの切実な恋の物語が始まっていくのである。
(講談社 1760円)