「青の刀匠」天沢夏月著
火事でヤケドを負った高校2年生のコテツが島根に住む遠縁の老女剱田かがりの家にやっかいになるところから始まる物語だ。
問題は、この剱田かがりが日本で唯一の女性刀鍛冶であること。そして学校に行くか行かないかはコテツの自由だが、行かないのなら仕事を手伝え、と言われること。つまりコテツは、弟子入りするつもりなど1ミリもなかったのに、結果的には剱田かがりに弟子入りすることになるのだ。
コテツはまず炭切りから始めることになるが、これが難しい。何度やっても長さが不揃いで、カンナさんから睨まれる。いや、あいつだって最初はひどかったとコウさんは言うが、カンナさんはいつも不機嫌で怖い。つまりコテツは3人目の弟子なのである。いや、弟子入りしたつもりはないのに、弟子扱いされてコテツは面白くない。
コテツに事情があるように、カンナさんとコウさんにも事情があるのだが、それらのドラマはゆっくりと立ち上がってくる。急ぐことはない。刀を作る過程のさまざまなことも克明に描かれるので、たっぷりと堪能できるのもいい。
天沢夏月は、「サマー・ランサー」で第19回電撃小説大賞(選考委員奨励賞)を受賞してデビューした作家だが、前作「ヨンケイ!!」は離島の高校陸上部を舞台にした佳作であった。本書はその「ヨンケイ!!」をしのぐ青春小説の傑作である。
(ポプラ社 1760円)