「やっと訪れた春に」青山文平著
青山文平は、異色の時代小説作家である。なぜ異色かというと、いつも何を始めるか、わからないからである。時代小説の場合、妙な言い方を許してもらえるなら、もう少し物語が安定しているケースが少なくないのだが(一般的な読者の時代小説観を逸脱しないと言い換えてもいい)、青山文平の場合、時代小説に対する私たちのそういうイメージを、いつも軽快にぶち破る。
もうひとつの特徴は、謎解きを主にする作品が少なくないことだ。たとえば、2016年の「半席」は、「このミステリーがすごい! 2017年版」で4位にランクされたほど、ミステリー色の強い作品であった。
この2つの特徴を頭に置いて読むと、本書はいかにも青山文平らしい作品といえるような気がしてならない。近習目付の長沢圭史が、藩主のお供のさなかに御城の壕になぜ落ちたのかという冒頭の謎はすぐに解かれるが(真相が明らかになると、まさか、そんなことが原因だったのか、と驚かれるに違いない)、青山文平の作品のプロローグにふさわしい魅力的な謎とも言えそうだ。
そしてメインの謎は、極秘の使命を受けた3人のうち、最後の1人は誰なのか、ということで、この「いるかいないかもわからぬ1名」をめぐって展開する本書は、もはや時代小説というよりも、ミステリーと呼ぶべきかもしれない。青山文平の快作をぜひとも堪能されたい。 (祥伝社 1760円)