「魔術師の匣」(上・下) カミラ・レックバリ、ヘンリック・フェキセウス著 富山クラーソン陽子訳
カミラ・レックバリは、「氷姫」をはじめとするエリカ&パトリック事件簿で知られているが(このシリーズはわが国でもこれまでに10作が翻訳されている)、そのスウェーデンミステリーの女王が新たな共著者と組んで始めた新シリーズの第1作だ。
最初に発見されたのは、箱に幽閉され、剣で貫かれた女性の死体。ストックホルム警察特捜班のミーナ刑事は、事件と奇術の関わりに着目し、著名なメンタリストで奇術にも詳しいヴィンセントに協力を依頼する。すると奇術に見立てた殺人がその後も起こり、この2人のコンビが真相解明に乗り出していく。
ミステリーであるからこれ以上の詳しい内容紹介は避けたい。それよりもこの小説の魅力について強調しておきたい。ストックホルム警察特捜班の面々が、まず超個性的なのである。その筆頭がヒロインのミーナ。この女刑事は超潔癖症との設定なので、とにかく不自由な生活を送っている。街を歩くと外はバイ菌でいっぱいなのだ。ポケットには消毒液が入っているが、それだけでは心が休まらない。陽気なゴールデンレトリバーが近寄ってくると、この毛のなかにはどんなバイ菌がたくさん蠢いているだろうかとあとずさるのだ。
3つ子の育児に追われて睡眠不足のやつもいれば(捜査会議ではいつも寝ている!)、尋常ではない好色漢もいて、ストックホルム警察は大変だ。実に快調なシリーズの開幕に拍手したい。
(文藝春秋 各1210円)