「素数とバレーボール」平岡陽明著
41歳の誕生日に、高校のバレーボール部でチームメートだったガンプ君からメールがくる。ガンプ君は、人に会うと「誕生日と住所、それに身長と高跳びの記録を教えてくれないか」と声をかけ、たとえば北浜慎介が「4月2日生まれ。烏山町5-7-1、174センチ、高跳びは72センチ」と答えると、4/2、5.7・1、174、72というナンバーを持つ人間として登録される。ガンプ君は、あらゆる人間を数字と紐づけて記憶する特性の持ち主なのだ。
そのガンプ君はアメリカに渡って大成功を収めたという。バレーボール部のチームメートに2億8000万円ずつ進呈するというメールに信憑性があるのもそのためだ。しかし条件が変わっている。いま行方不明になっているみつる君を捜し出すこと、5万年後に再結成する岸高バレーボール部に入部すること。
というわけで、41歳のチームメートの、さまざまな日々が描かれていくことになるが(この細部がたっぷりと読ませて飽きさせない。これを読むだけでも本書は十分だ)、この中年男小説が類似の小説と一線を画すのは、「5万年後にバレーボール部に入部する」という1点だ。よくある中年小説にしては少しヘンなのである。この条件は何なのだ。最後の最後に、その意味が明らかになると、彼らの青春が、そしてその向こうから私たちの青春が、すごい勢いで立ち上がってくる。
(講談社 1980円)