著者のコラム一覧
北上次郎評論家

1946年、東京都生まれ。明治大学文学部卒。本名は目黒考二。76年、椎名誠を編集長に「本の雑誌」を創刊。ペンネームの北上次郎名で「冒険小説論―近代ヒーロー像100年の変遷」など著作多数。本紙でも「北上次郎のこれが面白極上本だ!」を好評連載中。趣味は競馬。

「ぼくらに嘘がひとつだけ」綾崎隼著

公開日: 更新日:

 将棋小説である。いろいろと読みどころの多い小説だが、ここでは長瀬厚仁の若き日を描くパートを取り上げておきたい。

 厚仁が史上最年少の高校1年生として三段リーグに挑戦したとき、年上の親友である国仲遼平も三段リーグで最後のチャンスを迎えていた。奨励会には「満26歳の誕生日を含むリーグ戦終了までに四段になれなかった場合は退会となる」というルールがある。最終日の18局目に、厚仁と国仲遼平の対局が予定されていた。

 そしてその最終日、「絶対に手加減しないでくれ。もしも最後になるのなら、その相手は友達がいいんだ」と遼平は言う。で、遼平は奨励会から去っていくことになるのだが、このあとの展開がいい。

 奨励会退会から8年後、アマチュア将棋界の星となった国仲遼平に、プロ編入試験の道が開かれるのである。条件はいくつかあるのだが、その最後の対局で国仲遼平を破るのは、厚仁の父である長瀬泰典六段だ。国仲遼平の夢を、結果として2代にわたる長瀬家がつぶすことになる。その直後、国仲遼平から呼び出された厚仁が会いに行くと──-という展開になるが、このあとは書かないでおく。

 実はこの小説、主人公は厚仁の息子である長瀬京介である。その父親厚仁や、年上の親友・国仲遼平は、京介のドラマの背景に登場する人物にすぎない。つまり膨大な数の人物が登場する小説なのだ。しかし個人的には、厚仁のドラマがいちばん好き。

 (文藝春秋 1760円)

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    西武ならレギュラー?FA権行使の阪神・原口文仁にオリ、楽天、ロッテからも意外な需要

  2. 2

    家族も困惑…阪神ドラ1大山悠輔を襲った“金本血縁”騒動

  3. 3

    9000人をリストラする日産自動車を“買収”するのは三菱商事か、ホンダなのか?

  4. 4

    兵庫県知事選・斎藤元彦氏の勝因は「SNS戦略」って本当?TV情報番組では法規制に言及したタレントも

  5. 5

    小泉今日子×小林聡美「団地のふたり」も《もう見ない》…“バディー”ドラマ「喧嘩シーン」への嫌悪感

  1. 6

    国内男子ツアーの惨状招いた「元凶」…虫食い日程、録画放送、低レベルなコース

  2. 7

    ヤンキース、カブス、パドレスが佐々木朗希の「勝気な生意気根性」に付け入る…代理人はド軍との密約否定

  3. 8

    首都圏の「住み続けたい駅」1位、2位の超意外! かつて人気の吉祥寺は46位、代官山は15位

  4. 9

    兵庫県知事選・斎藤元彦氏圧勝のウラ パワハラ疑惑の前職を勝たせた「同情論」と「陰謀論」

  5. 10

    ロッテ佐々木朗希は母親と一緒に「米国に行かせろ」の一点張り…繰り広げられる泥沼交渉劇