「ロスト・スピーシーズ」 下村敦史著
アマゾンを舞台にした物語だ。がんの特効薬になる幻の植物「奇跡の百合」を見つけるために、探検隊が組織される。リーダーは、アメリカの製薬会社のクリフォード。メンバーはまず、ボディーガード役のロドリゲス(もともとは金の採掘人だ)、植物ハンターのデニス、環境問題に取り組む大学生ジュリア。そして日本人の植物学者・三浦。この5人がアマゾンの奥地に入っていく。
この手の小説の常套だが、正体不明の2人組が探検隊を追ってくること。この2人が何を狙っているのかがわからないから、サスペンスが盛り上がっていく。さらにメンバーの中にもさまざまな思惑があって、それが衝突すること。舞台がアマゾンなので、アマゾン・ジャガーをはじめとする動物たちが次々に現れて、人間の侵入を阻むように立ち塞がること。定番ながらもこのあたりはしっかりと読ませる。
本書の特徴は、背景となるブラジルそのものを描いていることで、その貧困層がいかに過酷な現実を生きているかを克明に描いている。19世紀の半ばにゴムが発見されてアマゾンが栄えたこと、やがてイギリス人にゴムの木の種を国外に持ち出しされて東南アジアで栽培されるようになると、アマゾンの独占的地位は失われ、その中心の街マナウスも寂れていくこと。そういう歴史を背景に、人間たちの欲望がぶつかり合う構図を下村敦史は巧みに描きだしている。
(KADOKAWA 2035円)