「光のとこにいてね」 一穂ミチ著
ゆずとかのんが知り合ったのは7歳のときだ。シャベルを取りに部屋に戻るとき、かのんは言った。
「そこの、光のとこにいてね」
ゆずの立っているところだけぽっかりと雲が晴れ、小さな日だまりができていたのだ。
団地の階段の下でゆずが立っていたのは、男の部屋を訪ねた母親に、そこで待っていなさいと言われたからである。そうして、同い年のかのんと知り合う。その団地に住むかのんは、インコの「きみどり」が唯一の友達だという少女だ。つまり、ゆずとかのんは、愛されることから切り離された少女である。日だまりの中で2人はそっと寄り添う。
この長編は、そうやって知り合った2人の、25年間の交友を描く長編だ。もっとも切れ目なくずっと会い続けたわけではないことも書いておく。会わない期間も長く、そのまま2人の人生が永遠にすれ違っても不思議ではなかった。幼いときには仲がよくても、大人になるにつれて会わなくなるという関係のほうが自然だろう。ところがこの2人は再会する。だからこれは運命だ。
友情小説なのか、百合小説なのか、それともシスターフッドなのか。そういう分類と区分けをしたくなるが、一度名付けてしまうとこの小説の持つ、奥行きとひろがりと余韻が消えてしまうような気がする。
ここは、運命的なつながりを鮮やかに描いた作品として読みたい。一穂ミチのベストだ。
(文藝春秋 1980円)